横にいたサラリーマンが気付くより先に、ふらりと席に座り込む
私はアルバイト先の工場で、思い切り残業させられて、疲れきっているのだ
おまけに玉姫様が発作を起こしているのだ
ふくらはぎが張って張って仕方ないのだ
座って然るべきだ
などと自分に言い訳をする
まだ19時の時点で帰宅の電車に乗ったサラリーマンなんて、定時で帰る上にデスクワークなのだろう?と、卑屈な目で彼の脛の辺りを視界の隅に入れてみる
しかし、だ
私が席を奪ったこのサラリーマンだって、実は営業職で一日中外回りをしていたとか、出張帰りで電車に乗りっぱなしで、疲れているのに一度も座れなかったとか、通勤時は背広を着ていても職場は肉体労働系だとか、などという可能性もあるのだ
もしかしたら目に見えない持病を抱えていたりするのかもしれない
どんなにか席が空くのを待ち焦がれていたという可能性は、どこまで自己を正当化しても否めないのだ
端から見れば、ヘッドフォンを頭に片手に携帯電話を持った若造の私こそ立って待つべきなのだろう
などと考えているうち、彼は電車を降りた
私が降りる駅と同じ駅であった
彼はてきぱきと読んでいた本を鞄に仕舞い、鮮やかなステップで人混みを通り抜け、哀愁漂う背中を私から遠ざけていった
譲らなくて良かったんだとなんとなく思った